「たこ焼きソース」、「あべのたこやき やまちゃん本店」、「たこつぼ 本店」
大阪市内のたこ焼き屋を追う企画の第5弾。今回訪れたのは大阪市阿倍野区だ。大阪南部の玄関口として知られる阿倍野は、超高層ビル「あべのハルカス」を中心に大型商業施設が集まる一方、一本路地へ入れば昔ながらの商店街や住宅街が広がる、新旧が共存する街である。天王寺駅周辺には観光客や買い物客が行き交い、昭和町や阿倍野筋周辺には地域に根付いた個人店が残る。大阪らしい人情と新たなにぎわいが交差するこの街で、今回もまた個性あふれるたこ焼き屋を追った。
大阪地ソースの沼へ誘う「たこ焼きソース」

昭和町駅からほど近い場所に店を構える「たこ焼きソース」。その名の通り、主役はたこ焼きだけではない。大阪が誇る「地ソース」の奥深さを味わえる、全国的にも珍しいたこ焼き店だ。大阪府内で製造されている約15種類という豊富なソースを取りそろえ、食べ比べが楽しめることから、「大阪の地ソースが集合する店」として注目を集めている。
店内に入り、まず注文。たこ焼きを待つ間、思わず目を奪われるのが壁に掲げられた大阪の歴史年表だ。そこにはソースメーカーの創業年なども記されており、大阪の食文化を支えてきたソースへのリスペクトが伝わってくる。店主もソースへの知識が豊富で、種類ごとの特徴を聞きながら選ぶ時間も、この店を訪れる楽しみの一つだ。
今回は人気ソース4種(タカワ、ゆず、いちじく、ヘルメス)が楽しめる8個入り(580円)を注文した。まず試したいのは、幻の地ソースとも言われる「ヘルメスソース」(大阪市東住吉区・石見食品工業所)。甘み、酸味、スパイス感のバランスが絶妙で、まさに王道の味わいだ。一方、「パロマゆずソース[たこぽん]」(大阪府松原市・和泉食品)はゆずの香りを前面に出した爽やかな酸味と甘みが調和した味わい、「ツヅミいちじくソース」(大阪府羽曳野市・ツヅミ食品)はいちじくの芳醇で奥深い甘みが特長だ。「タカワ お好みたこ焼きソース 甘口」(和泉食品)はスパイス感が際立ち、ピリッとした辛みの中に野菜の甘みも感じられる仕上がりとなっている。

大阪の地ソースを食べ比べ
もちろん、土台となるたこ焼きの完成度も高い。たこ焼き自体は大粒で表面積が広く、それぞれ異なるソースの味わいをしっかり受け止める設計。外は香ばしく、中はとろりとした食感。生地の旨みがあるからこそ、15種類ものソースを受け止められる。たこ焼きを食べる店でありながら、ソースそのものを楽しむ店——。「たこ焼きソース」は、大阪人にとって身近な存在であるソースの奥深さを改めて教えてくれる一軒だ。
何も付けない〝ベスト〟で勝負「あべのたこやき やまちゃん本店」

阿倍野を代表するたこ焼き店として、まず名前が挙がるのが「あべのたこやき やまちゃん本店」だ。テレビや雑誌など数多くのメディアで紹介され、ミシュラン掲載歴もある大阪屈指の人気店。立ち食いやテイクアウトで気軽に楽しめるのも魅力の一つだ。
今回注文したのは、8個入り(800円)の店名物「ベスト」。その名が示す通り、同店がたどり着いた〝ここのたこ焼きの最もおいしい食べ方〟である。ソースやマヨネーズなどを一切かけず、出汁の効いた生地そのものの旨みを楽しむ、やまちゃんを象徴する一品だ。福田正純社長おすすめという「社長のベスト(塩)」も気になるところだが、まずは何も足さずに頬張りたい。

阿倍野屈指の名店たこ焼き
一口頬張ると、外は香ばしく、中は驚くほどトロトロ。大玉ながら重たさはなく、出汁の効いた生地が口の中でふわりとほどけていく。昆布・かつおの和風だしと、鶏ガラに8種類の果実・野菜を加えて4時間煮込んだスープをブレンドした生地は、奥深い旨みが際立つ。生地づくりに手間と時間を惜しまないからこそ、「ベスト」が看板メニューである理由を一口で実感できるというわけだ。
ただし、焼きたての熱さには注意。トロトロゆえに口に入れた瞬間、思わず熱さと戦うことになる。空気を送り込みながら慎重に味わう——それもまた、たこ焼きを楽しむ醍醐味だ。熱さの先にある旨み。大阪を代表する名店の実力を感じる一皿である。
出汁で味わうもう一つの粉モン文化「たこつぼ 本店」

阿倍野で明石焼きを語るなら外せない存在が「たこつぼ 本店」だ。昭和36年頃、明石焼きに感銘を受けた初代が「多くの人の笑顔が見たい」との思いで創業。カウンターだけの小さな店から始まり、現在は三代目へと受け継がれてきた。ミシュラン掲載歴もある名店で、たこ焼きとはまた異なる、関西の粉モン文化を今に伝えている。
注文したのは明石焼き8個入り(1078円)。薬味には三つ葉と生姜が添えられ、たっぷりの出汁につけていただくスタイルだ。
まず驚くのは、ふわっふわな生地。だし巻き玉子を思わせる優しい口当たりで、口の中でほどけていく。そして、ぷりっとした食感の大ぶりなタコが存在感を放つ。そこへ自慢の出汁が加わることで、上品ながら満足感のある一品へと仕上がっている。

食べ方のおすすめは、まずはそのまま生地を一口。次に出汁だけを味わい、最後は明石焼きを出汁へダイブ。生地に穴を開けてたっぷりと出汁を吸わせて頬張るもよし、崩して出汁と一緒に味わうもよし。さらに三つ葉や生姜を加えれば、爽やかな香りと風味が広がり、また違った表情を見せてくれる。口いっぱいに広がる出汁の旨みと、柔らかな生地、ぷりぷりのタコの組み合わせは格別だ。
大阪の粉モンといえばソース味のたこ焼きを思い浮かべる人も多い。しかし、その土台には昆布やかつおを生かした出汁文化が息づいている。創業から三代にわたり受け継がれてきた一椀の出汁と明石焼きは、その奥深さを静かに物語る。阿倍野で長く愛され続ける理由も、この変わらぬ味にあるのだろう。



