SDGs、食の重要性を考える時代に
2月3日、この春相次ぐ食品値上げのトリを飾る(?)形で、インスタントラーメン最大手の日清食品が「カップヌードル」をはじめとするカップ麺、袋麺の価格改定を発表した。2019年6月の値上げ以来3年ぶりとなる、6月1日出荷分から小売価格ベースで10~12%弱(5%はカップライス、即席カップスープ類)の値上げとなる。大手マスコミは同日夕方から「カップヌードル」の値上げをこぞって報道。消費者の生の声を街頭インタビューするなど、センセーショナルに報じたが、本紙「フードウイークリー」では、6月値上げの可能性を昨秋から再三にわたり報じてきた。業界内ではある意味、想定内であった。
価格改定の要因は、今さら説明の必要はない。主原料の小麦粉価格、麺を揚げるパーム油、各種包材、物流費を含む製造原価の上昇だ。即席麺業界では、既に下半期の業績見通し、特に利益面での悪化を示すように、原価上昇の影響は始まっている。日清食品の決断は、ギリギリまで企業努力をしたというべきだろう。前述したパーム油は今年中の相場下落は見通せない上に、小麦粉は春以降のさらなる価格上昇は事実上決定的な情勢だ。
今回、日清食品の価格改定は、カップ麺と袋麺がともに10%超の上げ幅を決めたところが、これまでと異なる。従来、2019年、2015年、2008年の価格改定では袋麺は、カップ麺の改定幅を下回る形だったが、今回はほぼ同じ改定幅。今後のさらなるコスト上昇を見据え、市場の混乱を避ける狙いも透けて見える。
「カップヌードル」は193円→214円(小売価格ベース)の値上げとなる。改定幅は21円だが、店頭の実勢売価(特売価格)は10円程度が予想され、生活への影響は限定的と捉えたい。ただ同日の報道が示すように、情緒的側面は一時的に消費を冷え込ませる可能性はある。5月には値上げ前の駆け込み需要もあるだろう。しかし、食事として1食の価値を改めて考えるべきだ。インスタントラーメンの経済的優位性は明らか。「年金生活だから値上げは困る」といった生活者の声を紹介したメディアだが、様々な食品の値上げが相次ぐこの春。インスタントラーメンを選択肢から外し、1食の食事として満足度も踏まえ、どういった食品があるだろう。
本日、また来週以降、同業他社が価格改定を発表するだろう。一方で、小売業はプライベートブランドの価格改定を遅らせる可能性が高い点は、消費者にとってはプラス材料だ。小売業には販売価格を決める権限がある。日本特有の市場原理を否定はできないものの、SDGs時代に移り、必要以上の価格競争を続ける意味があるのだろうか。メーカー、中間流通業、小売業の製・配・販3層が適正な利益を維持し、さらなる商品開発、豊かな食生活への財源を確保すること、それを生活者に理解を求めることは、食品業界の未来、豊かな生活につながる。生活者には、この春の食品値上げに対する理解を深めることを求めたい。デジタルに象徴される便利さにお金をかける時代ではあるが、限られた財布の中身。人が暮らしていくために最低限必要な衣食住の重要性を考える時期に差し掛かったのではないだろうか。
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