実用化未定も世界で初めて安全性確認
広島大学とキユーピーは、ゲノム編集により卵アレルギーの主要原因物質「オボムコイド」が存在しない鶏卵の作出に成功。4月26日に都内で会見し、世界で初めて安全性を確認したと発表した。
日本人の約33%が卵アレルギーとされ、その主要アレルゲンがオボムコイド。鶏卵の卵白に含まれるタンパク質の一種で、鶏卵中の他のアレルゲンとは異なり加熱や消化酵素分解しても残るため、アナフィラキシーを含むアレルギー発症の原因となることが多い。
広島大学とキユーピーは2013年からアレルギー低減卵を作出するための基礎研究を共同で行ってきたが、昨年4月からは文部科学省所管の「共創の場形成支援プログラム(共創分野本格型)」に採択されたことで、アレルギーの準ナショナルセンターでもある相模原病院(神奈川県相模原市)など協力者らとともに研究を加速させた。
オボムコイド除去卵は、ゲノム編集により鶏の有精卵からオボムコイドを生成する遺伝子を破壊(除去)してからふ化させ、成長した雌鶏が産んだ無精卵。しかし実用化の際には、除去卵から産まれた雄鶏・雌鶏の交配による有精卵から生まれた雌鶏が産む無精卵を使用することが想定されている。同様に除去卵から産まれた二世代、三世代以降にもオボムコイド生成遺伝子はなく、当該遺伝子を除去したことで、他の遺伝子の変異や新たなタンパク質生成など、副産物も発生しなかった。
これにより基礎研究段階での成果として「オボムコイド生成遺伝子を持たない鶏が産んだ卵・雛鶏は、遺伝子を持つ鶏と交配しない限り、第二世代以降も当該遺伝子は持たず他遺伝子にも影響しない」との結果が得られ、世界で初めて安全性も確認された。
見た目や味・食感にも差異はほとんどない。除去卵からふ化した雛鶏・成長鶏および鶏卵の内外の見た目は一般的な鶏卵と違わず、加熱調理すると白身がわずかに硬くなる程度で、味の違いも感じられなかったという。時間経過による変化、他の食品と組み合わせた際の味の変質など、社会実装に向けてさらに研究を進めていく。
同研究の責任者である広島大学大学院統合生命科学研究科の堀内浩幸教授によると、今年4月に応用研究へと移行。相模原病院から提供された血清を用いてのアレルギー発症検査やヒト臨床試験、物性・加工適正評価などを行う。
キユーピー技術ソリューション研究所機能素材研究部の児玉大介チームリーダーは、発売時期ついて「臨床試験だけでも3年程度を要するため完全に未定」と、研究・開発がまだ初期段階であることを改めて示唆した。
また、今回作出したオボムコイド除去卵はゲノム編集によるものだが、日本人は遺伝子組み換え食品を極端に嫌う傾向があるため「安心を担保するには食品表示や紹介の仕方、消費者とのコミュニケーションが重要で大きな課題」と今後の見通しを語った。
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