ケンタッキーフライドチキンが一人勝ち
新型コロナウイルス感染症拡大が外食企業に深刻な影響を与えている。3月の売上高は外出自粛の影響で前年を大きく割り込む企業が続出。特に客数減が顕著で、客単価アップやテイクアウトだけではカバーしきれない現状が浮き彫りとなった。個人店はもとより、集客力のある大手でさえマイナスに落ち入り、外食市場はかつてなく冷え込んでいる。
郊外店舗は持ちこたえたが、強い自粛要請が発令された都心部での落ちこみが大きい。日常使いが多いことから健闘が予想されたファーストフードやファミリーレストランのチェーンでさえ、1~3割売上高を落とした。こうした中でも限定メニューによる客単価向上やテイクアウトの強化がある程度奏功した企業もあるが、売上高が前年キープどころか90%台後半なら御の字だろう。ましてや居酒屋業態など夜の営業が主体の店では、半減に近い企業が出るなど苦境と言わざるを得ない。
3月の大手外食チェーンで、唯一と言っていい好業績を叩きだしたのが「ケンタッキーフライドチキン」(日本KFCホールディングス)。既存店売上高は108.2%、客数は110.1%と頭一つ抜け出した。500円ランチなど買い求めやすい価格帯の充実や限定商品、シェアボックス企画などが好評だった。これに加え、従来からテイクアウトが約7割と高い比率も追い風となった。この他に堅調だったのがハンバーガー系。「マクドナルド」(日本マクドナルドホールディングス)の既存店客数は92.3%と大幅減だったが、限定品や宅配の寄与などで客単価が108.3%と押し上げ、売上高は100%をキープ。休業する店も増えたが、今後もテイクアウト店の拡大や宅配でカバーする考え。「モスバーガー」(モスフードサービス)でも既存店客数は91.5%だが、客単価が110.3%とカバーし、売上高は100.9%と奮闘した。
牛丼チェーンは吉野家が大善戦
牛丼業態では明暗を分けた。底力を発揮したのは「吉野家」(吉野家ホールディングス)。既存店売上高こそ98.2%だが、客数は100.1%をキープ。店内飲食は減ったものの、注力するテイクアウトを着実に伸ばした。客単価は98%と減少も客数キープは大善戦だろう。同社では4月も持ち帰り強化を打ち出している。牛丼などでテイクアウト15%オフ企画や出前館などの配送手数料無料(1000円以上)を大々的に打ち出し、囲い込みを強めている。
しかし、他の牛丼大手は苦戦を強いられた。「すき家」(ゼンショーホールディングス)の既存店売上高は92.2%。客単価は前年並みも客数が91・5%と大幅ダウン。「松屋」(松屋フーズホールディングス)も既存店売上高は95.2%。客単価は104.2%だが客数は91.4%に。
また回転寿司チェーンも厳しい。「スシロー」(スシローグローバルホールディングス)の既存店売上高は86.3%で客数は83.9%と大幅減。「くら寿司」(くら寿司)は既存店売上高が84.5%、「かっぱ寿司」(カッパ・クリエイト)は既存店売上高が76.9%、客数は71.8%。
一方、和食・中華業態では「丸亀製麺」(トリドールホールディングス)は既存店売上高86.5%、客数84.0%。「餃子の王将」(王将フードサービス)は直営既存店売上高96.6%、客数93.4%。「CoCo壱番屋」等(壱番屋)は既存店売上高90.2%、客数89.5%。「リンガーハット」(リンガーハット)は既存店売上高72.6%、客数77.5%。「まいどおおきに食堂」(フジオフードシステム)は既存店売上高77.8%、客数80.8%。
ファミリーレストランも休業や営業時間の短縮などが響き苦戦を強いられた。「ガスト」「バーミヤン」等(すかいらーくホールディングス)は既存店売上高76.1%。客数74.2%で店内飲食が大きく減少し、宅配やテイクアウトは伸びたがカバーしきれず。「サイゼリヤ」(サイゼリヤ)は既存店売上高78.5%、客数77.6%。「ロイヤルホスト」(ロイヤルホールディングス)も既存店売上高79.7%、客数76.2%に沈んだ。
喫茶業態への影響も大きく、「ドトールコーヒー」(ドトールコーヒー)は既存店売上高77.9%、客数78.0%。同社を含め、大手喫茶チェーンは4月以降に大規模な臨時休業に踏み切る動きが出ている。
ラストワンマイルが大きな課題に
他方、行政の自粛要請で特に槍玉に挙げられたのが夜営業の店舗。居酒屋業態やバーなどがそれに当たり、居酒屋では宴会需要の大幅な落ちこみもあり客数減少に歯止めがかからない。アトムは「甘太郎」等の居酒屋業態が既存店売上高57.3%、客数60.5%。ワタミは「和民」「鳥メロ」等が既存店売上高59.6%、客数60.6%。チムニーは「海鮮居酒屋はなの舞」等で既存店売上高50.1%、客数53.4%。
「鳥貴族」(鳥貴族)は既存店売上高83.9%、客数81.1%。串カツ田中ホールディングスは既存店売上高77.4%、客数74.1%。居酒屋業態は自粛要請を受けた臨時休業や営業時間短縮の動きが強まり、4月は3月以上に厳しい環境下に直面している。
国内外食市場の4月は緊急事態宣言発令の影響、新型コロナウイルス感染症拡大の長期化で大不況へ突入し、客単価の向上も今後はさらに難しい情勢。内食化進行の強まりから、テイクアウト強化などの販売方針の転換が求められている。しかし、そこに立ちはだかるのが〝外出自粛〟という大きな壁だ。来店客が来なければテイクアウトも成立しない。
3月は好調だったケンタッキーも、デリバリー(代行含む)比率は全店の1割程度で、外出自粛の動きが強まる中では、今後も同様に高い成長率が維持できるかは不透明だ。宅配の自前強化か、外部委託の代行か―。大阪府や神戸市など、自治体が宅配利用をサポートする動きもでているが、諸経費や手数料などで二の足を踏む企業も多い。外食市場にとっても、最終の消費者に届けるラストワンマイルへの対応が大きな課題となる。
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