味の素が広告・店頭販促を連動、フードロス削減へ

左から電通統括執行役員深田欧介氏、嬬恋村農業協当組合組合長黒岩宗久氏、
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構理事奥野真氏
人工衛星が捉えた農地のデータからキャベツの出荷量や価格を予測し、その結果に合わせて広告や店頭販促を動かす――。電通、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、嬬恋村農業協同組合(JA嬬恋村)が進めてきた取り組みが、実際の売場を舞台とする「実験的市場投入」へ移行した。8月24日から首都圏と関西の量販店約50店舗で順次展開する。
同日、都内で開かれた記者発表会では、これまでの実証成果と、予測データを活用した売場・販促連携について説明した。
同取り組みは、JAXAの宇宙イノベーションパートナーシップ「J-SPARC」の事業共同実証の一環。2022年に電通とJAXAがフードロス削減を目指したコンセプト共創活動を開始し、24年にはJA嬬恋村を加えた事業共同実証へ移行。キャベツの収穫時期や出荷量、価格変動の予測精度を高めてきた。これまでの検証では、人工衛星データに現地調査や市場データなどを組み合わせることで、出荷量と卸売価格を実績と高い相関で予測できることを確認している。
今回のポイントは、予測するだけで終わらせず、その結果を「売場」に反映させることだ。
キャベツの供給量が増えると予測される時期には、キャベツと関連商品を組み合わせた売場づくりや献立提案、クロスマーチャンダイジングを実施。関連商品の広告も連動させる。一方、供給量が減少すると見込まれる時期には、広告や店頭販促の実施時期、規模、訴求内容などを調整する。
この仕組みを食品メーカーとして活用するのが味の素だ。同社は今回の取り組みに協力し、人工衛星データなどから予測した嬬恋村産キャベツの需給状況に合わせ、「Cook Do®」<回鍋肉用>の広告出稿と店頭販促を実施する。
キャベツが多く店頭に並ぶ「買いどき」に合わせて、同商品による回鍋肉のメニュー提案を行い、キャベツの購入を促すとともに、家庭での消費につなげる。つまり、衛星データが捉える「おいしい買いどき」と、調味料メーカーが提案する「おいしい食べ方」を組み合わせることで、売場から食卓まで需要を動かす考えだ。
背景には、農産物特有の需給変動がある。天候や市場環境によって供給過多や不足が生じると、価格下落や廃棄ロスにつながる。一方、従来の広告・販促は農作物の生産・供給状況と必ずしも連動しておらず、供給量に応じた需要創出が難しかった。今回のプロジェクトでは、そこを広告の力で埋める。
味の素・食品事業本部副事業本部長兼コンシューマーフーズ事業部長の神谷歩執行役常務は、キャベツは量販店だけでなく家庭でも廃棄が発生していることを指摘。量販店では需要と発注・在庫のミスマッチなどによる売れ残り、家庭では「一玉が大きく使い切れない」ことなどが廃棄の要因となっている。食品小売業全体では年間48万トンの食品ロスが発生しており、キャベツのフードロス削減には、売場と家庭の双方へのアプローチが必要としている。
そのため、味の素は店頭での購入促進だけでなく、家庭での消費促進にも重点を置く。「Cook Do®」<回鍋肉用>はキャベツをたっぷり使えるメニューとして、旬のキャベツを無駄なく食べ切るための具体的な食べ方を提案する。

味の素執行役常務の神谷歩氏
衛星側では、雲の影響を受ける光学衛星だけでなく、天候や昼夜の影響を受けにくい合成開口レーダ(SAR)データの活用も進める。JAXAは先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)などのデータ活用を今後進め、予測の高度化を図る。
プロジェクトには電通、JAXA、JA嬬恋村に加え、両毛システムズ、電通デジタル、味の素、リモート・センシング技術センター(RESTEC)、JA全農ぐんまが参加。衛星データの解析から価格予測、広告出稿、量販店での売場展開まで、それぞれの強みをつないだ体制を構築している。
今回の実験では、供給状況に応じて広告や売場を動かすことが、実際の需要創出やフードロス削減につながるかを検証する。発表会では今後、キャベツにとどまらず、他の農作物や地域への展開も視野に入れて事業モデルを構築していく方針も示された。
「衛星がキャベツの買いどきを知らせ、広告が食べ方を提案し、売場が需要をつくる」。宇宙から得たデータを食品売場と家庭の食卓につなぐ、新たな需給連動型マーケティングの実用化に向けた一歩となる。
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