いのち輝く未来社会へ
4月13日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)がついに開幕した。開幕初日は朝からあいにくの空模様となったものの、約12万人が会場を訪れ、熱気に包まれた。前日の12日には開会式が開催され、天皇皇后両陛下ならびに秋篠宮ご夫妻もご臨席。華やかなパフォーマンスが披露され、万博への期待がいっそう高まった。万博では「食」もまた注目のテーマの一つ。関西が誇る食文化や最先端のフードテックなどが国内外に発信され、食品業界にとっても新たな可能性を拓く契機となりそうだ。これから半年間、地域には多くの観光客が訪れ、食を中心とした産業にも大きな波及効果が期待される。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博。人工島・夢洲(ゆめしま)を舞台に、日本の万博史上最大となる160を超える国・地域・国際機関が参加し、未来のテクノロジーや社会課題への解決策を提示する場として世界から注目を集めている。個人・社会・世代・国家間の分断が緩やかに進み、コロナ禍でさらに加速した。この万博を契機に一つの大きな輪の中で共存する未来社会を築けるのか、大きなテーマを持った184日間が始まった。
開幕前日の4月12日には、開会式が執り行われ、天皇皇后両陛下ならびに秋篠宮ご夫妻がご臨席。また、石破茂首相、吉村洋文大阪府知事も登壇した。吉村知事は「万博の歴史で初めて海上で開催される。会場から見える大阪湾の景色は、世界は一つだと感じさせる」とコメント。続けて大阪府民を代表し、来場者を歓迎するとともに、万博を築き上げてきた多くの関係者に感謝を述べた。石破首相は政府を代表して「世界中から訪れる皆様を安全にお迎えし、開催する責任を果たしていく」と決意を語った。
天皇陛下は「万博を通じて子供たちが、世界への理解を深め、次世代技術に触れることで社会の未来を考える機会となることを願います」とお言葉を述べられた。2025年日本国際博覧会・名誉総裁の秋篠宮皇嗣殿下の開会アクションによって大阪・関西万博が正式に始動した。
4月13日の開幕初日には早朝から数千人が来場。天候は雨だったが、12万人が訪れ好調なスタートを切った。一方で運営面では課題も散見され、今後の改善が期待される。

いのちのリレーを体現する日本館
今回の万博では、世界最大の木造建築「大屋根リング」が、各国のパビリオンを一つの輪でつないでいる。いのちのリレーを体現する日本館をはじめ、海外パビリオンでは世界の文化や歴史を体感することができる。
万博のテーマの中核を成すのは、会場の真ん中に設置された「静けさの森」。直径20mの池を囲むように、大阪府内の公園等から将来間伐予定の樹木など約1500本を移植し、周辺の森で枯れゆくいのちを再生し、生態系との共創を象徴する。万博の主要テーマは「平和と人権」「未来への文化共創」「未来のコミュニティとモビリティ」「食と暮らしの未来」「健康とウェルビーイング」「学びと遊び」「地球の未来と生物多様性」の7つ。静けさの森では、これらを軸にアーティストが手がけるアート体験やイベントを展開する。
例えば、静けさの森に溶け込むように設置された「Better Co-Being」は、慶應義塾大学医学部教授である宮田裕章氏が担当。屋根や壁のない解放された空間で、スマートフォンと「echorb(エコーブ)」と呼ばれる不思議な石ころを使って、来館者同士の共鳴体験を提供する。また、ロボット工学者の石黒浩氏が手掛ける「いのちの未来」では、最先端の技術を駆使したアンドロイドやロボット、CGキャラクターなどのアバターが登場。人間とアンドロイド達が共存する未来の形を提示する。

世界最大の木造建築「大屋根リング」
大阪から世界に発信
一方、食品業界にとっても万博は大きな転機となる。1970年の大阪万博では、世界中の食文化が紹介され、日本では「外食元年」と呼ばれた。日本初のファミリーレストランの開業や、ケンタッキーフライドチキンの出店など、日本の外食産業発展の足掛かりとなった。今回は、成熟を遂げた日本の食文化を改めて世界へ発信する好機となる。会場では、全国各地の郷土料理や地域食材を活かしたメニューが提供され、地域の食文化が世界と交差する場としての魅力も際立っている。
ORA外食パビリオン「宴~UTAGE~」では「新・天下の台所」をテーマに、約80社が出店し、会期中に月替わりや週替わりで多彩なメニューを提供していく。また、食品メーカーが料理教室や試食会、セミナーなど様々なプログラムを開催し、日本の食文化について深く学ぶことができるパビリオンとなっている。
サスティナブルフードコートでは、大阪を代表する老舗・伝統のグルメが一堂に集結した「大阪のれんめぐり~食と祭EXPO~」が出店。「たこ家道頓堀くくる」や「大阪新世界元祖串かつだるま」など、大阪の食文化が存分に楽しめるエリアとなっている。
また、会場内には世界の潮流とマッチした店舗も。「六甲バター」では、オールヴィーガンのチーズ代替食レストランを、「ケンミン食品」では、グルテンフリーラーメン専門店「GF RAMEN LAB」を出店。両社とも世界のトレンドを取り入れながら、味にも妥協しないメニューを提供する店として来場者の注目を集めている。
さらに最先端のフードテックや培養肉、SDGsへの取り組みなど来場者に「未来の食」も紹介。大阪大学大学院工学研究科や、伊藤ハム米久ホールディングス、TOPPANホールディングスなど6者が運営パートナーとして参画する「培養肉未来創造コンソーシアム」は、大阪ヘルスケアパビリオンの「ミライの都市」エリアで、3Dバイオプリント技術による培養肉の実物およびミートメーカー(コンセプトモデル)を展示。今回は和牛から採取した細胞をもとに製造した培養肉を紹介する。同ブースでは環境負荷を抑え、たんぱく質不足を解決する〝未来の肉〟の姿を提示する。
また、サントリーと近畿大学が協業して養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所 大阪・関西万博 ウォータープラザ店」を出店。天然資源に頼らない近大マグロなどの完全養殖魚や近畿大学オリジナルの交雑魚を使用したメニューを提供する。この交雑魚は2種類の魚の利点を掛け合わせ、成長スピードが速く、供給の安定化につながる取り組みとして期待されている。
今後半年間にわたり続く万博は、観光や交通インフラのみならず、食品業界にとっても実験と挑戦の場となる。未来の食のあり方、そして大阪から世界へと発信していく食文化の可能性に、業界としてどう応えるか。今こそ、食品業界の底力が問われるときだ。
2025年4月21日付