低アレルゲンの新小麦粉「1BS-18ホクシン」は市販化へ
公益財団法人ニッポンハム食の未来財団は、2019年度研究助成事業の成果報告会を10月13日に開催した。
同事業は、食物アレルギーの問題解決を目指す若手研究者を支援するもので、6回目となる今回は共同研究6件と個人研究16件に6,299万円を助成。同年度含む過去4回での助成件数は87件で、総額2億4,613万円となる。
成果報告会は、新型コロナウイルス感染防止のため例年とは異なる方法で開催。事前に報告要旨を配布し、個人はウェブ会議方式、共同は会場での口頭報告会がリアルタイム配信された。
個人研究で注目したのは、北海道大学大学院理学研究院生物科学部門の水島秀成助教による「鶏卵アレルゲン除去卵の作出」。
ノンアレルゲン鶏卵を産出する雌うずらの作成を試みたものであったが、アレルゲン性の高い遺伝子を欠損させた受精うずらはふ化直前に死亡。欠損させた遺伝子が脳や筋肉形成に必要不可欠であることが判明し、今回手法では作成不可能との結果に至った。
共同研究では、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の村田幸久准教授らによる「食物アレルギー診断技術の開発」。
現状の診断手法「経口抗原負荷試験」は手間がかかるうえ時間・費用や受験者の身体的負担が大きいため、負担軽減を図るための新手法を開発。尿中のマーカー因子(PGDM)を用いることで、時間は約8割短縮し、費用も大幅に抑えたることができた。今後の課題として偽陰性への対策など必要なものの、実用化に大きく前進した。
また、小麦アレルギーの主要抗原であるω-5グリアジンを遺伝子的に含まない「小麦アレルギー患者が食べられる小麦種」の開発に取り組んでいた島根大学医学部皮膚科学講座の森田栄伸教授らは、新小麦「1BS-18ホクシン」の開発・栽培に成功。
経口実験結果でごく少数にアレルギー発症がみられたため、低アレルゲン小麦粉としてパン・クッキーなどの商品化を検討。品質や収穫量の安定化など課題はあるが、島根県益田市のふるさと納税礼品に採用されたことが報告された。
一色賢司審査委員長(一般財団法人日本食品分析センター学術顧問/北海道大学名誉教授)は、総評として「食品アレルギー分野において実用化目指すには、医学・食品が一緒に研究するのが望ましい」と述べ、食品メーカーや小売店などに理解協力を求めた。
【共同研究:6件 助成金計3,410万円】(所属氏名は代表者のみ)
1.「食物アレルギーにおける免疫記憶の機序解明」
東京医科歯科大学難治疾患研究所 安達貴弘准教授
2.「重症食物アレルギーに対する経皮免疫療法の実用化に向けた非臨床・臨床POCデータセットの取得」
大阪大学大学院薬学研究科 岡田直貴教授
3.「ソバアレルゲンの特性改変に効果的な手法の探索」
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門 佐藤里絵上級研究員
4.「ヒ素摂取量低減を目的としたフコイダンの血中ガレクチン9分泌を促進させる食品成分との食べ合わせによるアレルギー発症予防」
神戸大学大学院 農学研究科 水野雅史教授
5.「食物アレルギー診断技術の開発」
東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻 村田幸久准教授
6.「ω-5グリアジン欠損食用小麦の開発:ω-5グリアジン感作型小麦アレルギーの根絶に向けて」
島根大学医学部皮膚科学講座 森田栄伸教授
【個人研究:16件 助成金計2,889万円】
1.「HACCP 導入に向けた抗体精密整列化技術による食物アレルゲンの超高感度検出法の開発」
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科 飯嶋益巳准教授
2.「工場内におけるアレルギー感作評価が可能なペプチドビーズを用いた簡易検査法の開発」
甲南大学フロンティアサイエンス学部 臼井健二准教授
3.「血清microRNA を用いた好酸球性食道炎の新規バイオマーカーの確立」
国立病院機構 浜田医療センター消化器内科 大嶋直樹医長
4.「食物アレルゲン対応食品製造のための新しい高圧噴霧技術の開発」
東北大学大学院環境科学研究科 大田昌樹准教授
5.「水溶解メラニンによるアナフィラキシー応答制御と作用機序の解明」
中部大学 川本善之准教授
6.「家塵中の鶏卵抗原と鶏卵アレルギー発症の関連の解明」
山梨大学大学院総合研究部医学域社会医学講座 小島令嗣助教
7.「3型自然リンパ球を利用した新規食物アレルギー予防法の開発」
九州大学生体防御医学研究所システム免疫学統合研究センター粘膜防御学分野 澤新一郎教授
8.「メイラード反応が甲殻類アレルゲンの消化・吸収性へ及ぼす影響の解明」
北海道大学大学院水産科学研究院 清水裕技術専門職員
9.「食物アレルギーに対するカンナデンプンの予防効果」
中部大学応用生物学部食品栄養科学科 田中守講師
10.「花粉-食物アレルギー症候群に対するシラカバ花粉免疫療法の有効性と安全性の検証」
神奈川県立こども医療センターアレルギー科 津曲俊太郎医長
11.「LC-MS/MS を用いた特定原材料のアレルゲンおよび品種判別同時分析法に関する研究」
岐阜県保健環境研究所専 永井宏幸門研究員
12.「重症鶏卵アレルギー児に対する経口免疫療法ランダム化比較試験:炒り卵vs加熱卵粉末」
国立病院機構相模原病院小児科 永倉顕一医師
13.「低アレルゲン化食品を用いた魚アレルギーに対する新規治療法の開発」
藤田医科大学医学部小児科 中島陽一講師
14.「乳児期のビタミンD投与によるアレルギー予防に関する研究開発」
千葉大学医学部附属病院小児科 中野泰至助教
15.「鶏卵アレルゲン除去卵の作出」
北海道大学大学院理学研究院生物科学部門 水島秀成助教
16.「重症消化管アレルギーの病態解明」
国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー・感染研究部 森田英明室長
公式サイト
https://www.miraizaidan.or.jp
2019年度研究助成成果報告要旨
https://www.miraizaidan.or.jp/specialist/grants/2018/02_event.html
ウェブ先行記事