積極的な情報発信がリスク低減につながる~有識者とともにリスコミを議論
味の素は「~現代に必要なリスクコミュニケーションとは?~うま味調味料(MSG)/食品添加物を事例として」をテーマに、味の素KKメディア懇談会を11月29日に東京會舘丸の内本館で行った。
この懇談会では社会の関心の高いテーマを取り上げてきた。今年度は消費者庁の「食品添加物表示制度に関する検討会」が始まったことを受け、MSGや食品添加物を題材に3回シリーズで実施されてきたが、今回は最終の締め括りとして企業におけるリスクコミュニケーション(リスコミ)の必要性について、有識者による講演およびパネルディスカッションを行った。
「社会の変化と新時代のリスクコミュニケーション」を演題とした、食の安全・安心財団理事長の唐木英明東京大学名誉教授は、情報社会4.0からサイバー空間とフィジカル空間が高度な融合を見せるSociety5.0時代へ変化を見せても、人間の判断はさほど変わらない点を指摘。人は危険情報を重視する一方、先入観を優先する側面があり、対立と不寛容の構図の歴史が続いている。そこに科学技術の発展、ネット社会・情報発信の自由化時代を迎え新たなリスクが現れるも、不信感とともに最終判断は個人に委ねられる。安全と安心の分離状態とも言える。
唐木氏は食品関係でリスコミが行われた例が少なく、誤解による意見対立が多いと指摘。しかし、米国での遺伝子組み換えに関する公開討論では、情報発信による効果を確認。国内での食品安全モニター調査でも、残留農薬や耐性菌、食品添加物、遺伝子組み換えに関しては成果が見られた。例えば原発問題では長年のリスコミ効果があったものの、福島第一原発事故問題で悪化した事例も紹介し、リスコミの成功には情報のアンバランス解消と国の積極的な関与の必要性と、〝忘却〟をポイントに挙げた。
リスコミによる対立の解消は困難。第一歩として企業の積極的な情報共有で選択の自由度を高めることが重要となる。
また、「生活者とのリスクコミュニケーション」を演題とした、日本生活協同組合連合会の代表理事専務嶋田裕之氏は、生活協同組合と日本生協連の歴史と仕組みを紹介。食品添加物に対する独自のZリスト運動(総量規制の考え方から具体的な使用基準へ)を通じた科学的評価と組合員心理への対応。食品衛生法改正に向けた運動、化学物質のリスク管理政策など、常に組合員との対話を進め、独自の品質保証体系を確立してきた。
パネルディスカッションでは、リスコミにおける企業に求められる役割、メディアへの期待、偽情報が氾濫するネット社会で必要なこと、そして成功のカギについて議論が展開された。
ディスカッションから参加した東京大学大学院情報学環教授の林香里氏は、権力を監視する役割だけでなく、生活者のより良い暮らしのために正しい情報を分析・発信、社会課題解決のための〝建設的ジャーナリズム〟を提唱。「少数派の声を取り上げれば良い訳ではない。ありのままの報道はジャーナリズムの思考停止状態」と指摘し、間違ったことは間違いと言えるメディアの存在を求めた。
西井孝明社長はこれまでの取り組みを振り返り、MSGに対する誤解は両端の意見の歩み寄りが進まないために起こり、同様の問題はMSG以外にも存在すると指摘。生活者に正しい理解を浸透するためにリスコミが重要と判断。新たなリスコミ実践に向け、新しいリスクコミュニケーションの場を立ち上げ、生活者と「食と健康」に関する正しい情報を共有し、真に健康で豊かな社会の創造に貢献する行動宣言を発表した。
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